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SOSEI TALK

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SOSEI TALK #14

三好 博士号を取ろうというふうなことをお考えになったわけですけれども。
倉林 はい。
三好 まず総政のTIM専攻を選んでいただいた動機なんですけれども。
倉林 けっこう珍しい仕事をしていたので、ちょうどグローブスパンに入ったぐらいから、いろんなところでお話しさせていただく機会もありました。ベンチャーキャピタルとかスタートアップという業界は、最近日本も盛り上がっていますけれども、日米の差が現在もすごく大きい業界です。かつ、特にセールスフォースにいたときと日本の大企業にいたときを比較すると、同じ仕事をしているのに、かなりやり方が違っていて、ダイナミズムも大きく違うという事を実感し、自分の中で業界の課題が見えてきたというか。
IT分野はオープンイノベーションが非常に求められる業界であるにもかかわらず、日本の会社がなかなかうまくできてこなかったというところの要因について、自分が実際にアメリカのオープンイノベーションの最前線に行ったことで、仮説が立てられたというのがあったんですね。これを何かしら日本の企業へのメッセージとして残したいなと思ったときに、母校にこういうプログラムがあるというのを友人経由で聞きました。
そういう博士論文を書いてみようと若いころから思っていたタイプではないんですけれども、ビジネススクールも終わったし、日本の仕事も落ち着いて、何か新たなチャレンジをしたいというときに、せっかく母校に、しかもテクノロジーとイノベーションマネジメントという私の専攻にもぴったりの学校があって、社会人でもやれるというところで、ぴったりかなと思って応募したというかたちですね。
今でも覚えていますけど、先生が面接官でいらっしゃって、私の準備は不十分で非常に鋭いご質問を受けました。
三好 そうでしたかね。
倉林 (笑)先生が面接官だったのは、すごくよく覚えています。
三好 まず、オープンイノベーションの話で研究開発にも関係するところなんですが、シリコンバレーだと、いろんなスタートアップが、要するにベンチャー企業が出てきて、伸びないのもあれば、伸びるのもあってということで。
日本の場合だと、大企業というのが新しい研究開発をするとき、だいたいフルセット主義で、自分のところで中央研究所を持ってきて、自分でやるというね。
倉林 おっしゃるとおりですね。
三好 新しいベンチャー企業の開発した芽を買って育てていくという発想はあんまりないですよね。
倉林 ないですね。
三好 その辺のアメリカ型のオープンイノベーションと、日本型のどっちかというと自前フルセット主義ですね。この違いの要因というのは、どこにあると思われますか。
倉林 複雑な要因がいろいろ絡み合っていると思うんですけれども、基本的には文化的なもの、あとは歴史的なものも大きいと思っています。
そもそも日本型の研究開発とか、新卒採用・終身雇用というのがワークする業界も引き続きあると思うんですけれども、ことIT業界とか創薬業界のような、どんどん新しいビジネスが生まれてきて、一つの製品がずっと売れるというサイクルが短い業界の場合に、この日本のやり方が合わないということだと思うんですね。
自社で開発していると、製品が一番売れる旬のときに開発が追いつかなくて間に合わなかったり、せっかく長い期間とお金を掛けてつくったものを世に出しても、一瞬で陳腐化したりという業界なので、M&A(買収)によって、そのとき一番売れている技術、ビジネスモデルというのを中に取り込まないと、会社として勝っていけないというものがあります。
あとは、スタートアップというベンチャー企業の経営者に、シリコンバレーの場合は特に優秀な人材が集まる業界ですので、そこに大きなお金を投資するファンドが存在して、世界のR&D構造というものが、もうマーケットとしてありまして、ここに日本の研究開発のやり方が対抗するということが、IT業界では完全に難しくなっている。
これはもう過去10年、20年ずっと同じ状況ですので、それを買収なり投資をして自社に取り込むということをしないと難しい。けれども、長らく自社の研究開発部門でやろうというカルチャーですべての業界が動いてきた日本の中で、IT業界だけがそこに適応するということがなかなか難しかったんだと思います。
三好 まず、そういう日本の状況を踏まえて、倉林さんが博士論文で取り組もうとしたテーマについて、ちょっと詳しくお話しいただいてもよろしいでしょうか。
倉林 そういったなかでテーマとしては、特にセールスフォースのときに肌で感じたことなんですけれども、まず人材ですね。こういったオープンイノベーションを手掛ける人材を中から持ってくるのが、今でも日本企業の主流のやり方ですね。社内の人事異動でやるんですけれども。
そうではなくて、アメリカの場合は経験者を外から連れてくる。その人に、二つ目のポイントとしては任せるということですね。スピード感が求められるので、その能力がある人にやらせないと失敗をしてしまうので。いわゆる合理的なことをアメリカの会社はやっている。日本の会社はやれていない。
これがオープンイノベーション、特に私の場合は、そのなかでもコーポレートベンチャーキャピタルの成功、失敗に関わってくるんじゃないかというところで、それを統計的に証明しようということに取り組みました。
三好 なるほど。たぶん業界の方でないと、コーポレートベンチャーキャピタルが何かというのが、おわかりにならないと思うんですけれども、ちょっとだけ。
倉林 もちろんです。コーポレートベンチャーキャピタルというのは、いわゆる企業、だいたいの場合、大企業がベンチャー企業に直接投資、もしくはファンドを別立てして、ベンチャー企業に投資をすることをいいます。戦略的目的とキャピタルゲインを取るという二つの目的を組み合わせています。
三好 戦略的目的というのは、どういうことか、少し説明いただけますか。
倉林 例えばベンチャー企業と出資元の大企業が販売協力をしたり、共同開発をしたり。事業でのシナジーということですね。
三好 なるほど。
倉林 例えば、今私がDraper Nexusでやっているような、ベンチャーキャピタルという、いわゆるキャピタルゲインだけを追求するプレイヤーとは違いまして、コーポレートベンチャーキャピタルは本体企業とのシナジーも勘案しながら投資をするスタイルです。
三好 なるほど。
倉林 グーグルとか、セールスフォースとか、インテルとか、シスコとか、いわゆるアメリカの巨大企業は長らくこういったプラクティス、仕事の仕方というのをしています。そのなかで本当に自社にとって必要な会社については、丸ごと買収をして、アクハイヤー(Acqui-hire)と言いますけれども、acquisition(買収)によって、経営者ごと自社のタレントに引き入れてしまうというようなことも含めて、オープンイノベーションを実現しているというかたちですね。
三好 なるほど。
博士論文の主要なテーマというのは、そのコーポレートベンチャーキャピタルのパフォーマンスに対して、どういう要因が影響を与えているかということですね。
倉林 おっしゃるとおりです。
アメリカでは、このコーポレートベンチャーキャピタルについて成功要因の先行研究がございました。そのなかでも、これはもう私の感覚と一致していて、幾つか主要な成功要因がいろんな論文に挙げられているんですけれども、親会社のコミットメントとか、権限委譲とか、それに加えて、先ほど申し上げた人材ですね。適切な人材を採ってこなければならないということと、その人に適切な報酬を与えなければいけない。要は、投資の仕事がやる気になるような報酬ですね。こういったものが成功を分けますというのは、どの論文にも書いてあったので、私の感覚が間違っていないんじゃないかと。
では、そのアメリカ型のやり方を実践している日本の会社と、実践していない会社では差が出ているのではないかというところを分析しようと考えました。
三好 そのデータとかは、どうされたのかお話いただけますか。
倉林 幸いなことに、私も15年ぐらいこの仕事をやっておりますので、日本のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の主要企業の代表の方は、ほぼ顔見知りでしたので、皆さまにヒアリングのお願いをして、データをお預かりすることができました。この論文をやるうえでの私の差別化はこのあたりかなとは思っています。
三好 今まで自分で培ってこられたいろいろな人的なネットワークを有効活用するというのも、社会人だからこそできることで。
倉林 そうですね。インタビューをお願いした方には、終わった後に先生にもご協力いただいて執筆した紀要(同志社政策科学研究)を、お礼状とともに郵送させていただいて、皆さんに喜んでいただきました。そういう意味では、Win-Winのかたちで仕上げられたかなと思います。
三好 それはよかったですね。時間がないというのは一般の学生に比べて不利な点ではあるんですけど、その辺は社会人ならではの有利な点ですよね。
倉林 そうですね。これはこれからやられる方にもお伝えしたいところですけれども、私の場合は完全に自分の実務と密接に関わるテーマでしたので、仕事のために調べていたデータとか、培ってきた経験をすべて論文に落とし込むことができた。逆に言うと、だからできたのであって、やはり仕事とあまり関係ない分野の論文を書くというのは非常に難しい。自分の仕事と関係のあるテーマでも、最後は倒れそうになりましたので。(笑)
そういう意味では、本業とのシナジーですね。自分の仕事とのシナジーがないと、特に仕事が忙しくなってきたときに、もたなくなってくる可能性もあるんじゃないかなと思いますね。
三好 確かにね。自分の博士論文で書いていることが仕事にも役立つし、仕事をやっていることが博士論文を書くことにも役立っているという、補完的な関係がつくれたということですよね。
倉林 おっしゃるとおりです。
もう早速実感していることもあります。そもそも先行研究を調べなければいけないということで、私の場合、75本ぐらいコーポレートベンチャーキャピタルに関する論文を読んだわけです。実務ではやっていたものの、論文をちゃんと読むということは実務家の人ってあまりしないんですけど、博士論文作成を通じていろんな考えというものが頭の中で整理されました。
今、仕事柄、日本の大企業から200億円ぐらいお金を預かって運用しているんですけれども、私どものファンドにお金を預けていただいている大企業の幹部の方とお話しするときにも、CVCの成功要因とか失敗要因についてはもう頭に入っているので、いろんなアドバイスが可能です。
そういう意味では、論文を書かせていただいたおかげで強制的に頭にデータがインプットされているので、それが非常に実務に役立っているというのは実感していますね。
三好 ありがとうございます。
とは言いつつ、やっぱり相当時間を取ったりするというのは、つらかったとは思うんですよね。
倉林 はい。