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SOSEI TALK

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有機農業に生きる

今里 私も時々料理を嗜むのですが、長澤さんの作られた玉ねぎとか水菜、最近ではナスとかトマトですかね。別段お世辞を言うわけではなく(笑)、コクと甘みがあるんですね。非常にやわらかくて、控えめな甘みと言うんでしょうか。ナスなんかを焼きますと、ジューシーにとろけるように、ちょうど片栗粉をまぶしたようなトロトロ感が出まして、本当においしいですね。
この味の秘訣というのは、企業秘密になるかもしれませんが(笑)どのような努力をされているんですか?
長澤 はい。野菜によって全て工夫の仕方は違います。基本はまず葉を食べるか、実をたべるか、または茎を食べるか、根を食べるかという点で工夫は変わりますよね。その野菜の本来の味ひとつひとつを生かしながら、私は「野菜の味付け」と言っているのですが、野菜のうまみを引き出していく、という色々な努力をします。それぞれの野菜の味を引き出し、なおかつおいしく感じるような工夫ができないか、ということを常に考えながら栽培しています。
例えばナスですけれども、ナス自体はそんなに味はない野菜なんです。しかしうまみやコクをつけることは可能なんですね。京都では一般的な惣菜として、ナスと身欠きニシンを一緒に炊きます。そこからの発想で、最初にナスをつくるところに身欠きニシンを入れて栽培してみました。すごく単純なんですけれども(笑)。
しかしこれは失敗しました。原因はひとつです、ネコ(笑)。近所のネコが集団で現れまして、大失敗してしまいました。年1回しかチャレンジできませんので、その次の年は、粉体状態のニシンを入れてみました。そうするとネコは来ませんでした。今度はそれまで自分の作ったナスよりも一歩、いや二歩くらい味の面では進歩しましたね。
今はニシンとイワシを入れています。どちらも窒素分を利かすのですが、若干イワシの割合を増やしつつあります。最初は1割でしたが、今は3割ほど。何でこういうことをしているかといいますと、基本的にお料理のダシとりと同じだと考えてください。ニシンとイワシを足したらどんな味になるかな、ということで試してみましたところ、かなり味の深みが増したような気がするんです。こういう発想でやっています。
玉ねぎの場合でしたら、イワシを「味付け」に100%使っております。野菜によって、使うものの種類や比率を変えているんです。
今里 そのうちカツオだしのナスとかもできますかね?(笑)
長澤 カツオも使いましたけどね。(笑)カツオはあまり効果がなかったですね。その他考えたのはコブとか。コブは塩気があるからちょっと難しいかなあ、とか色々考えてはいます。ごく単純な発想で始めたのがきっかけではありますが。
今里 そのように試行錯誤を重ねて努力をされ、市場に受け入れられて、京都でも名立たる料亭に評価される高品質の野菜が完成したことにより、長澤農園および長澤源一の名前が国内のみならず、海外でも知られるようになりました。特にイタリアの国際スローフード協会の耳に届くところになりましたよね。数年前、国際スローフード協会が隔年で開催しております「テッラ・マードレ(母なる大地)」というイベントに招待をされ、講演をされるという機会もありましたけれども、イタリアに行かれて、いわゆるスローフード運動というものに触れられたわけですが、どのような感想をお持ちになりました?
長澤 食の多様性を大事にしようという動きは非常に重要なことだと感じました。世の中がファーストフード一色になるのではなく、色々な産物があり、暮らしがあり、そして昔ながらの食べ物があります。国際的な規模の企業が、そういった「本来あるべきものを駆逐する」と言いますか、無くしてしまうような動きはいかがなものかと危惧しています。
本来のものがきちんと残ればいいのですが、残りにくくなっている。ファーストフードや外食産業だけではなく、いわゆる「画一的な手法」がそれぞれの地域の良さを壊しつつありますし、一番影響が出ているのは貧しい国だと思います。結果として、経済難民が富める国に押し寄せていく。このような動きは少し是正していかないと。どんな社会においても、大きなところでの意向ははたらくと思います。また、その意向が正しい方向に向いている間は問題ないとは思います。現在は地域社会を破壊するような事態も生じていますから、当然是正していかなければならないでしょう。本来の姿に戻していく努力をする、その仕組みをつくるという活動については、非常に共鳴しています。
今里 実はこの頃から長澤さんと総合政策科学研究科のつながりが出来てくるわけなのですが、振り返りますと、ソーシャル・イノベーション研究コースが立ち上がる平成18年(2006年)の3月18日に、イタリア国際スローフード協会日本担当理事のジャコモ・モヨーリ氏と、イタリア・スローフード「食の大学」理事長ビットリオ・マンガネリ氏をお招きして、開設記念講演会とシンポジウムを本学明徳館で開催することになりました。その時に長澤さんにパネリストとしての参加をお願いしに伺ったのが最初の出会いでしたね。
長澤さんはこのシンポジウムで、パネリストの1人である農林水産省のエリート官僚を相手に、歯に衣を着せない農政批判をされて、満場の拍手をいただいたわけですが(笑)、その後何度か町家キャンパス(江湖館)にもお出でいただく機会があり、我々と長澤さんの交流がスタートしました。
その頃から長澤さんをよくご存知の本多さんに、長澤さんに初めてお会いになった時の印象から振り返っていただきたいのですが。どのような印象をお持ちになりました?
本多 そうですね、一直線で、潔い生き方をされて来た方だという印象を受けました。それはやはり色々なご苦労をされて、有機農業をここまで育ててこられてきたという自信から来るものではないでしょうか。本日の話をお聞きしていても、長澤さんのお人柄が言葉に滲み出ていると思います。