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感染症とグローバル化

投稿者 月村 太郎:2021年1月1日

投稿者 月村 太郎:2021年1月1日

 言うまでもなく2020年は、新型コロナ感染症で始まり、そして終わりました。1月に中華人民共和国湖北省武漢市における感染拡大が報じられ、2月に入ると、日本では「ダイヤモンド・プリンセス」号をめぐる報道がありました。その後に、欧米では第一波、第二波がやってきました。日本でも、第一波、第二波、そして第三波が到来してきました。
 新型コロナ感染症の拡大は、グローバル化の進展を私たちに改めて気づかせてくれる機会でもありました。1989年の冷戦時代終了後、グローバル化をめぐる議論が盛んになり、多くの論者が意見を交わしてきましたので、グローバル化の定義は非常に多様です。その中で、「グローバル化」とは何か、という質問に対して、誰もが答える共通点は「ヒト・モノ・カネ」が国境を越えてかつてない程に迅速かつ大量に地球大で移動しているという現象でしょう。ここでは、まず新型コロナ感染症の拡大とヒトやモノの移動との関係について考えてみましょう。
 新型コロナ感染症のパンデミックが、ヒトからヒトの感染の連鎖によるものであることは誰もが知っています。新型コロナ・ウィルスはヒトと一緒に越境してきました。従って、越境した感染の拡大に、各国は国境の閉鎖で対応しました。日本もそうした対策を採りました。しかしこのことは、訪日外国人観光客によるインバウンドに重点を移してきた、航空会社や宿泊業者の観光業界及びそれに深く関連する飲食・小売業界に大きな打撃を与えることになりました。この事実により、私たちは、日本の経済とグローバル化との関係を再確認しました。ヒトの移動を国境でシャットアウトしたことによる影響は、私たちが外国人労働者に頼ってきた実態も浮き彫りにしました。
 グローバル化によるモノの移動については、私たちも知識として持っていましたが、新型コロナ感染症の拡大は、それを私たちに実感させました。たとえ日本で製造されているマスクでも、その重要な部分は中国製であったことも記憶に新しいところです。中国からパーツが来ない為に家の新築が進まないという報道もありました。かつてBSE(牛海綿状脳症)が大きな問題になったとき、私たちは気づかないうちに、グローバル化によるモノの移動に巻き込まれていることを知らされました。それから約20年が経過し、この間にグローバル・サプライ・チェーンが如何に拡大・深化してきているか、という現実が露わとなりました。
 「ヒト・モノ・カネ」の移動の増大というトレンドは、グローバル化に限らず、大袈裟に言えば、有史以前から人類が経験してきたことでした。ということは、新型感染症の拡大はいまに限ったことではないということです。新型コロナ感染症としばしば比較されるインフルエンザが100年前に大流行したことは広く知られています。ラテンアメリカのアステカ帝国やインカ帝国の滅亡には、スペインのコルテスやピサロが率いる人々による殺戮よりも、彼らが旧大陸から持ってきた感染症が大きな影響があったのではないかという指摘がされています。ヨーロッパを何度も襲ったペストも代表的な感染症です。島国である日本でも感染症は古くから記録されており、737年に藤原武智麻呂・房前・宇合・麻呂の四兄弟の命を奪ったのは流行していた天然痘であったとする説が有力です。人類の歴史は感染症の歴史でもあったのです。
 感染症拡大への対策のひとつが流行地域の隔離であったことは、これまた昔からでした。新型コロナ感染症に対してはワクチンの開発が急がれ、世界保健機関WHOを通じた情報の共有ができているとはいえ、私たちが未知の感染症の拡大に直面した際に、まず採る方法は昔から同じなのです。そして、新型コロナ・ウィルスによる感染拡大を封じ込めることができれば、越境する「ヒト・モノ・カネ」の増大というトレンドは再開されることでしょう。従って、時期の確定はできませんが、世界がいまと同じ経験をする日がやってくることだけは確実です。新型ウィルスの感染拡大のサイクルが次第に短くなっているという指摘もあります。医療関係者ではない私たちがいまできることのひとつは、マスクをして手洗いを励行しつつ、先人の経験や思いを糧にする為に、それらを間接的に後追いすることではないかと思っています。
 最後に、そうした作業に取りかかる際に参考になる書籍として、ウィリアム・H・マクニール(佐々木昭夫訳)『疫病と世界史』上・下(中公文庫)、そして有名なアルベール・カミュ『ペスト』、小松左京『復活の日』を挙げておきます。