こちらに共通ヘッダが追加されます。

総政Now Headline

HOME > 総政リレーコラム
スポーツ法から見た日大アメフトの反則タックル事件 川井圭司教授

スポーツ活動中の事故の法的責任に関しては、ルール上、許された行為や競技に付随する行為は正当業務として、あるいは危険の引受があるとして違法性を阻却し、民事責任(損害賠償責任)や刑事責任の問題とはしない、というのがスポーツ法の考え方である。そうでなければ、競技者は常に訴訟のリスクや、犯罪成立のリスクにさらされ、自由な活動としてのスポーツが成立しないからである。

これに対して、競技上のルールに反する行為によって他者を負傷させた場合には、法的責任について検討の余地が生じる。たとえば、乱闘により相手選手を負傷させる行為である。競技から離れた暴力行為についてその違法性を阻却する積極的な理由は見当たらない。乱闘は競技とはいえないからである。ただし、乱闘についても、法的責任を追及しない暗黙のルールが存在する競技もある。たとえば、アイスホッケーのNHLでは選手同士が素手で殴りあう「ファイティング」は、競技ルール上反則行為(5分間の退場処分)ではあるが、社会的・法的には許容されている。つまり、ルール上の反則行為であっても、なお、その競技に付随するものであれば、冒頭に述べた理由により、やはり法的責任が阻却される。

ここで、日大アメフトの反則タックルを考えてみよう。まず1つ目の論点は、相手の選手に怪我をさせる目的でタックルをすることは法的に許されるか?である。その問いに対する答えは、ルール上、許されたタックルであれば、たとえ怪我をさせるつもりであったとしても、法的責任を追及すべきでないということになる。というのも、仮にこうしたタックルが違法とされるのであれば、そもそもボクシング、アメフト、ラグビーといったコンタクトスポーツは成立し得ないからである。もっともこうした(野蛮な!?)スポーツを禁止すべきという議論はありえる。イギリスではボクシング廃止論が今でも根強く主張されているし、実際、ノルウェーでは2016年まで、ボクシングは暴力であり犯罪として禁止されていた。

2つ目の論点は、相手の選手に怪我をさせる目的でルール違反(反則プレー)をするなどの行為が法的に許されるか?である。こうしたルール違反については、第一義的にはスポーツ競技上の制裁、つまり退場・出場停止・永久追放処分などがリーグや競技団体から科されることになる。先ほどのアイスホッケーの「ファイティング」のほか、たとえば、報復を意図する野球の危険球などについても、退場処分などの競技上の制裁が科せられることになるが、通常、刑事責任が問題となることはない。

これまでにスポーツ競技で刑事責任が問われたケースを見ると、たとえば、ボクシングでクリンチの状態になったときに相手選手の耳を噛みちぎったケース(アメリカ)、NHLの試合中、スティックで相手選手の顔面を、しかも背後から殴打したケース(アメリカ)、アマチュアラグビーの試合中、相手チームの選手の顔面に肘打ちをし、頬骨の骨折など顔に重傷を負わせたケース(イギリス)などがある。近年、権利意識の高まりにより、国際的にも訴訟に発展するケースが増えてきたが、刑事上の責任が生じるのは、当該競技に付随するとはいえないような(ルールから逸脱した)行為に対して、かつ、重大な結果に対して、という前提がある。したがって、ほとんどのケースでは、競技上の制裁によって加害者に不利益を科し、同様の反則行為の抑制が図られている。つまり、内部ルールによって解決されているのである。こうした内部ルールによる抑制が十分に期待できないケースや、競技を逸脱するような行為に対して刑事制裁が限定的に科せられるのである。日大アメフトの反則タックルの刑事責任についてはこの観点から検討されることになる。

スポーツ事故をめぐる責任(制裁)の種類

では、日大アメフトの指導者の責任についてはどうだろうか?その倫理的評価は横に置くとして、コンタクトスポーツにおいては指導者が相手選手にダメージ(怪我)を与えるよう競技者に指示することは、十分に考えられる。アメフトでは常にクォーターバックが標的になるし、ラグビーではスタンドオフがその対象になりやすい。なお、数年前にアメリカンフットボールのNFLで、相手チームの選手に怪我を負わせるプレーに対して報奨金が与えられていたことが発覚した。「敵を潰せ(怪我をさせろ)!」とロッカールームで選手を鼓舞するレベルではなく、怪我を負わせる具体的なプレーに対してチームとして金銭的動機を与えていたことが問題となったのである。ちなみに、相手選手を担架で退場させた場合は1,000ドル(約11万円)、再起不能にした場合は1,500ドル(約17万円)が支給されていた。この報奨金制度を維持してきたチームとこれを黙認した監督に対しては、こうした制度を明文で禁止しているNFLの規定に反するとしてリーグから制裁が科されている。

以上の整理を前提にすれば、指導者の刑事責任の有無に関しては次の事実認定がポイントとなる。すなわち、怪我をさせる目的で「ルールから逸脱した(反則)」プレーをするような指示、あるいは競技に関連しないプレーをするような指示があったか否か、である。

日大の反則タックルについては、あくまでも私見ではあるが、「QBを潰せ(怪我をさせろ)」という指示はあったが、「重大な反則をしてまで潰せ」という指示は出ていなかったと考えるのが合理的である。勝つために手段を選ばなかった(このこと自体はスポーツマンシップに悖る)としても、重大な反則行為をしてでも相手選手に怪我を負わせろという指示があったとは考えにくい。このような反則行為があれば、加害選手も制裁によって出場の機会を奪われ、チーム自らが痛手を被ることは火を見るよりも明らかである。

他方、学生選手をこうした重大な反則行為に追いやった指導方法については、教育の一環と捉えられる大学スポーツにおいては不適切の極みというべきであろう。また敵味方を問わず、選手への配慮を著しく欠く指導であり、教育上も、スポーツ競技上も問題があるといわざるを得ない。その意味で、教職員としての社会的制裁、そして指導者としての競技上の制裁は免れない。

その一方で、教育的観点やスポーツマンシップといった倫理上の評価と、刑法上の違法性の評価はしっかりと区別して議論される必要がある。