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一概に「ポピュリズム」とは括りきれない反EU勢力の多様性 原田徹助教


反EUを標榜する政治勢力が2010年代に入り台頭している。その原因のひとつがギリシャに端を発する欧州債務危機であることは間違いない。南欧地域を中心とする債務危機国では、EUが要求する痛みを伴う緊縮財政策への抵抗が、そのまま反EU政党の勢力拡大ないし新興反EU政党の誕生につながった。そのため、南欧諸国での反EU勢力は、経済的な対立軸において、左派的な志向性を有するものが多い。たとえば、ギリシャで政権獲得に成功したSYRIZA(急進左派連合)、スペインの新興政党ポデモスなどが典型的である。イタリアの「五つ星運動」(Five Star Movement)も、EUによる緊縮財政策への不満の受け皿として機能したことを勘案すると、同様に左派的な反EU勢力として理解できそうである。


他方で、従来から反EU勢力としてイメージされてきたのは、左派的な志向性を有するものではなく、むしろ逆に「極右」とカテゴライズされる政治勢力だった。極右勢力は、ナショナリズムやネイティビズム(Nativism)を重視し、とりわけ反移民を強く主張してきた。つまり、経済的な対立軸での反EU路線というのではなく、社会的・文化的な対立軸に立脚してEUに反対する立場をとるのである。この極右勢力も一定の勢力を維持しており、ヘルト・ウィルダース(Geert Wilders)率いるオランダの自由党、フィンランドの「真のフィンランド人」、デンマークの国民党など、各国内での連立政権参加や閣外協力を経験するほどである。フランスの国民戦線も、2017年5月のフランス大統領選の決選投票に党首マリーヌ・ル・ペン(Marine Le Pen)を進出させるだけの支持を獲得している。

このように、政治的スペクトラムの左右両極の勢力の間で、主たる対立軸として経済的次元に立脚するか、それとも社会的・文化的次元に立脚するかに元々違いがあったものの、反EUとしては共通なのであって、それゆえに、より増幅的な形で2010年代の反EU勢力の伸長が意識されたのだ。

さらに興味深いのは、2010年代の時の経過とともに、左右両極の反EU勢力の間では互いに異なっていた(相互に独立していた)はずの対立軸に、重なりの兆しが出てきたことである。具体的には、極右勢力が、政権獲得経験を有したりその可能性を高めたりするなかで、中間層を取り込むために「中道化」ないし「メインストリーム化」(mainstreaming)するに伴い、経済的な対立軸での新たな選好として「福祉ショ-ヴィニズム」(welfare chauvinism)を唱え始めたのである。「福祉ショ-ヴィニズム」とは、自国の福祉制度を熱狂的に信奉するナショナリズムの一形態であると考えればよい。すると、この極右勢力の新たな立場はEUからの緊縮財政策による自国福祉制度縮減に反対するスタンスと重なるため、南欧諸国の左派的な反EU政治勢力の主張と符合することになる。だからこそ、元来左派志向で福祉充実を望む有権者が、自国の中道左派政党がEUの緊縮財政に迎合する形で右傾化してしまい当てにはできないと考えて、支持政党を極右へと乗り換える現象さえ見られ始めたのである。ここで非常に内実的な次元において左右両極が結びつく契機が生じたのである。


しかし、この「福祉ショ-ヴィニズム」は、たしかに各EU加盟国の福祉国家を制度的に持続可能とするという意味で左派を惹きつけはするものの、究極的には左右間での分断の契機をはらんでいる。すなわち、極右勢力は、自国福祉制度を維持しようとするが、そこから自国民以外の移民は排除しながら、余計な負荷としての移民を制度から排除することをも手段としながら自国福祉国家制度の持続性を確保しようとする。それに対し、左派勢力は、移民を自国民に近い形で福祉制度へと包摂しながら自国の福祉国家制度維持を志向する。つまり、左派は自国民と移民との間で福祉面での平等を図ろうとする。


たしかに、ギリシャのSYRIZA政権は、左派的な反EU勢力としてEUからの緊縮財政策に抵抗して福祉制度縮減の極小化を試みはするものの、決して移民の排除を求めるのではなく、自国内の他EU加盟国出身移民を自国福祉制度に積極的かつ平等に包摂すべきとのEUの規範を遵守している。政権与党になってはいないが公約から判断すればスペインのポデモスも同様である。そして、これら左派的志向の反EU勢力は、EU体制からの離脱を主張はしない。あくまでEU体制は尊重し、経済的な対立軸でのEUのあり方を緊縮財政策ではなく成長路線に反転させようとするなど、EU体制内での方針転換を目指している。この南欧の左派的な反EU勢力のスタンスは、フランス国民戦線やオランダ自由党など、少なくとも言説のうえではイギリス同様にEU離脱を目指すとする極右政党を出自とする反EU勢力とは、一線を画していると言わなければならないだろう。


反EU勢力は、「ポピュリズム」や「EU離脱志向」として、十把一絡げにして理解されがちである。しかし反EU勢力にもグラデーションや温度差があることに鑑みれば、BREXITに続いて「ただちにEU離脱ドミノが生じる」と想像するのは、それはそれで単純に過ぎやしないかとも思うのである。