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地域における高齢者介護・医療連携のネットワーク 総合政策科学研究教授 井上恒男

高齢者ケアにおいて、介護・医療の連携はかねてからの懸案であるが、連携に向けての動きがいよいよ急である。施設介護から在宅介護へ、病院医療から在宅医療へという政策が同時並行に、しかも急ピッチで打ち出されているからである。ここ1~2年の制度改正により、介護保険制度では、施設ケアへのアンバランスな集中を是正するための費用負担体系等の見直しが行われた。また、医療保険制度では、医療機関として存続する療養病床以外は2012年3月までの期限付きで介護療養型医療施設としては存続しえないことが本決まりとなり、入院を要しない高齢者は在宅での様々な介護・医療サービスで今後対応していくという方向性が明確になってきた。その場合の在宅医療体制の整備を図るため、在宅療養支援診療所制度が新たに医療保険の診療報酬体系に組み込まれた。

一連の改正により、介護保険制度と医療保険制度の連携を進める仕組みやサービス選択肢の整備は進んだといえよう。しかし、これはあくまで制度レベルの話である。入院の必要がなくなり、あるいは入院しないで、要介護の高齢者が在宅で安心して暮らしていけるためには、各地域での在宅介護と在宅医療が、各サービス事業者の協働によって現実に行われるシステムが構築されている必要がある。このような介護・医療の連携は全国自治体の課題であり、既にいくつかの地域が先行して意欲的に取り組んでいる。その代表例の1つがいわゆる尾道方式といわれる尾道市医師会を中心とする取組みで、病院・診療所主治医、ケアマネジャー等の関係職種が連携して要介護高齢者の在宅医療をサポートするシステムを協働作業で作り上げてきたものである。

私自身も、京都府内の乙訓地域に着目し、今年から地元の医師会、ケアマネジャー連絡会、福祉団体等の方々に参加していただいて「高齢者地域ケアネットワークの構築に関する研究」を行う研究会を始めたところである(*)。在宅で介護・医療両面で支援を必要とする高齢者が継続して療養できるような支援体制のあり方について、皆さんと勉強を進めている。もとより地域行政の重要な政策課題であるが、介護・医療サービスの実践に直接・間接に携わっている当事者が共に考えていく過程も連携の一環であると考えたい。実は、乙訓医師会の介護・医療連携に対する認識は以前から高く、要介護高齢者が保健・医療・福祉・介護サービスを受けたときの情報を高齢者ご本人が携行する1冊の「乙訓在宅療養手帳」に記録し、関係機関が共有するというユニークな事業を10年前(1996年)から運用し、介護・医療連携の一助としている。

しかし、これから同地域の人口高齢化が一層進み、また、在宅で病気がちな要介護高齢者が増加してくることを考えると、それに向けたさらなる体制作りが求められよう。そもそも、乙訓地域で暮らす高齢者や介護者の介護・医療サービスに対するニーズのボリューム、利用しているサービスの現状、また、主治医による在宅医療実施の現状や今後の対応可能性、さらに入院した場合の要介護高齢者に対する退院支援の実態等は、十分把握されているわけではない。そこで、現在は第1ステップとして実態を多面的に把握するための調査を進めており、来年の早いうちにその分析を行い、さらに、在宅ケアのネットワークづくりを進めるための事業を試行する第2ステップに向けて検討を進めて行きたいと考えている。

ところで、高齢者に対する介護・医療の連携は、欧米諸国が抱えている政策課題でもある。例えば、わが国のケアマネジャー制度が参考にしたとされる英国では、保健医療サービスはNational Health Service(NHS)と呼ばれる国営、福祉サービスは地方自治体社会サービス部局というように組織が分断されているため、サービス連携に長年苦心している。このため、2004年4月からは退院遅延にペナルティを課すという特別法が導入された。その強硬な手法のためかなりの物議をかもしたが、急性期病院での治療が終わって退院可能な状態になっても介護サービスが整備されていないために退院が遅延する場合には、地方自治体がNHSに遅延日数に応じたペナルティを支払うというものである(このような強硬措置の背景には、未だに常時約80万人という入院待機者問題を改善するためには、病床利用の効率化を押し進めるしかないという緊急課題がある)。

1610年代に英国国教会カンタベリー大司教が建設し、現在も運営されている老人ホーム
1610年代に英国国教会カンタベリー大司教が建設し、現在も運営されている老人ホーム(英国ギルドフォード市)

勿論、強硬措置に訴えれば連携が進むというものではない。以前から、要介護高齢者に対するケアプラン作成のプロセスを保健医療部門と介護サービス部門との間で共通化するためのガイドラインの普及等の技術的支援、あるいは連携をパイロット的に進めるための国庫補助等の財政的支援等も行っている。しかし、私が英国保健省で今年ヒアリングしたところでは、医療ニーズを有する要介護高齢者について、例えば病院内で退院支援を行う病院スタッフと退院後の在宅でケアプランを担当するケースワーカーの連携は各地域の実情に左右され、必ずしもシステマティックに行われているわけではないようである。因みに、わが国のケアマネジャーが作成するケアプランには主治医の意見も反映される仕組みになっているので、介護・医療の両ニーズが集約される。この仕組みがその機能を発揮できるようにしていくためにも、介護・医療関係者の連携ネットワークの確立は極めて重要な課題である。

(*)本研究は、今年度から設置された本学の「医療政策・医療経営研究センター」寄付教育研究プロジェクトの一環として実施している。