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GM-UAWの苦悩 総合政策科学研究教授 佐藤 厚

1. GMといえばいうまでもなくアメリカを代表する巨大自動車企業であり、その盛衰は、一企業を超えてアメリカ自動車産業の今後に大きな影響を与える。最近の新聞報道によれば、不振に陥った北米での事業の再建に加え、部品大手メーカー、デルファイの破綻処理や、金融子会社(GMAC)の株の売却問題など、先行き不透明な難問にGMは直面しているという。マスコミの報道では、こうしたアメリカの「巨人」の目立つ部分での苦闘ぶりがどうしても強調されがちだが、見落としてはならないのは、自動車の製造というモノ作りを根っこの所で支える工場や職場レベルでの労使関係の苦悩である。

2. 2005年9月私は、こうしたGM-UAW(全米自動車労働者組合)の労使関係の最近の動向を調査するために、ミシガン州ランシング市に立地するランシング工場UAWローカル602を訪問する機会に恵まれた。アメリカの労使関係は産業別に組織されており、自動車産業についていえば、GMなどの業界を代表するビッグカンパニーとUAWが3年-4年ごとに全国労働協約を締結して基本的な労働条件が決定されるが、工場レベルのより詳細で具体的な協約やルールはローカルユニオンと呼ばれるUAWの地方組織がGMと交渉して締結される慣行がある。

3. アメリカ資本主義の中の労働といえば、個々人の労働成果の高低が報酬の多寡と連動し、個人差が大きい「成果主義的」な報酬システムや条件のよい企業を求めて転々と転職するような流動性の高い労働市場をイメージしがちである。たしかに成長過程にある新興IT企業やホワイトカラー労働者では、それらと近似する現実のあることを否定はしない。だが、労働組合に組織されたユニオンセクターで働く多くのブルーカラー労働者にはそれとは全く異なるしくみと慣行があるのが実態であり、このランシング工場もその例外ではない。たとえば、組合員内部には、階層格差が全くなく、したがって入職してから経験を積むにつれてより上位の地位に昇進するキャリアもない。細かくみると、チームリーダーには多少の上乗せ賃率(時間当たり0.5ドル)があったり、修理などを行う保全労働者とラインのオペレーターとでは時間賃率に差があったりするが、工場労働の大半を占めるラインのオペレーターの時間賃率はいかなる部門と職種であれ、また年齢、勤続、性別に関わりなく全くの同一額である(時給26.16ドル)。要するに働きぶりの個人差を反映する査定や熟練形成に伴う昇進キャリアのない世界が厳然と存在しているのである。査定があり、職長(フォアマン)への昇進キャリアのある日本の工場組織とアメリカのそれとの大きな違いがここにある。

4. 一方、工場の現場ではこうしたライン業務を管理監督する役割が当然発生するわけで、職長(フォアマン)がその役割を担うことになっている。とりわけ日本の自動車工場では、進捗管理や品質管理、さらには工程改善に際してこのフォアマンの役割は極めて重要だとされている。ところが、アメリカのこの工場では、このフォアマンの仕事の多くを外部の請負社員に依存するか、大卒新人のエントリージョッブ(入職口の最初の仕事)として位置づけているというのである。組合員がフォアマンに昇進するケースもなくはないがかなり稀であり、「いったん職長に昇進したらヒラの組合員とはつきあわない」という。工程をいくつか経験し、熟練にともなってフォアマンに昇進する。そのフォアマンが率先して品質管理や工程改善にとりくみ、競争力ある自動車を市場に送り込む。こうした慣行が一般的である日本と著しい対照をなしているというべきだろう。

5. これは工場組織の日本との違いをなす事例の一端である。こうした工場レベルや職場レベルでのしくみと慣行を変え、現場での作り込みなど品質管理の強化にむけた多大な努力と交渉が労使間で模索されているところであるが、GM-UAWの苦悩は深いといわねばなるまい。