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大店審特別委員10年の体験から―地域エゴイズムと消費者利益の矛盾― 総合政策科学研究科教授 太田進一

今はすでに廃止されている「大規模小売店舗審議会」(大店審)の近畿審議部会兵庫県特別委員を1992年から10年間務めていたことがある。当時の通産省、現在の経済産業省の任命によるものであった。2000年6月から、大規模店舗立地審議会に引き継がれている。

旧法の大規模店舗法(大店法)の立法趣旨は、大規模小売店舗の出店に当たって消費者利益の保護と周辺中小小売業の事業活動の機会の確保の観点から調整を行うものであった。また、大店法の運用面に係る問題や審査基準の妥当性等について調査・審議が行われ、原則として、その審議内容については非公開とされていた。

当初は、外国資本や大資本の規制緩和を行い、消費者利益を確保することが念頭に置かれており、また大規模店舗を導入することにより、中小小売商においても、経営の近代化や効率性の向上という間接的効果を狙ったものであった。しかし新法では、消費者の環境保護や、交通渋滞の緩和等、消費者の周辺の生活環境の利益確保に重点がおかれ、対象がシフトしている。

10年間に、環境の激変と消費者ニーズの変化に対応できた大規模店とそうでない店舗との間で優勝劣敗の体制がはっきりしてきた。またその間に、1995年1月17日午前5時46分発生の「阪神淡路大震災」を体験しており、神戸のポートアイランドに立地していたKou`Sポートアイランド店(2002年8月末に閉鎖)等に終夜営業を許可して、大震災への対応を行ってもいた 。

地方への現地出張を含めて、かなり県内を歩き回った。その土地、地域により、特殊な政治構造や開発の状況が大店審へ反映される。現地でのヒアリングの席上で、地域の人たちにより怒声が飛んだり、机を叩いたり、足を踏み鳴らしたりの現場にも立ち会った。

地方にあっては、人口の減少や横ばいで、地域の商店街が寂れていく姿が増えていった。いわゆる中小商店の集積立地している商店街に、商店主の高齢化や後継者難から、空き店舗や休眠店舗が増えていったのである。商店街そのものが寂れていき、衰退が目立った。近隣の人たちも買い物に行かなくなる。商店街はいっそう寂れていく。いわゆる悪循環が発生するのである。そうなると、商店街の活性化はいよいよ困難になる。そのために、商店街の経営者たちは、自分たちの死活問題となるので、大規模店の進出に対しては過敏となる。前述のような過激な場面にしばしば立ち会わざるを得ないという羽目になるわけである。もちろん、大規模店側も地方の商店を吸収する計画案を地元側に提示するが、高い家賃を負担できる商店はごく一部に限定される。しかしこの商店街は、高齢化社会を迎えてお年寄りに優しい新しいコミュニティ・ビジネスとして、見直されつつあることは言うまでもない。

このような中で、ある地方都市において、人口増が急激に起こり、大阪への通勤地区である大規模ニュータウンとして開発されてきたA地区を何回か訪問した。現地において関係者のヒアリングも行った。ニュータウン内のショッピングセンターを見学すると、いつも混雑している。売り場面積が狭くて小さいのである。品揃え機能も満足されていない。普通のショッピングセンターなら昼間の時間帯は閑散としているが、ニュータウン内のそのショッピングセンターはいつも満員で混雑している。ニュータウン内に大規模店の設置計画が出ると地元が市ぐるみで大反対をする。そのために、大規模ニュータウン内の量販店が増えないし、大規模店も設置されてこなかったのである。

そのニュータウンまでは、二つの駅が通勤・通学として利用されていたが、そのうちの一つの駅には、旧来からの中小商店街が立地していた。そこは駅前の都市再開発の対象地区になっており、ニュータウンの住民をも商圏とした近代的なショッピングセンターの設置が計画されていたのである。ところが道路の拡幅工事が一向に進まない。計画道路の一部を占拠している商店がなかなか立ち退かないのである。そのために、駅前の再開発とショッピングセンターの建設が遅れていた。

駅前の再開発と中小商店街をショッピングセンターとして再構成する設置計画があるために、ニュータウン内の大規模店の設置が認可されないのである。その間、団地に居住する住民たちは不便極まりない買物状況を強いられることになっていた。

これは消費者利益が地元の地域エゴイズムとの調整にあって、犠牲になっていた一事例である。もちろん、開発途中の一コマに過ぎず、やがて駅前の再開発とショッピングセンターの設置・完了に伴って、ニュータウン内の住民も消費者利益を享受できるのではあるが、開発計画が長期間を要し、いかに難しいかの事例なのである。