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政策最新キーワード『人的資本経営と転職』

人的資本経営と転職

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投稿者 王 嬌:2024年2月1日


 この数年、経済と労働市場の変化に伴い、「人的資本(Human Capital)」や「リスリング」というキーワードへの注目が高まっています。この背景として考えられるのは、経済産業省が2020年に発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(人材版伊藤レポート)」や、2022年の岸田内閣による「経済財政運営と改革の基本方針2022」で提唱された「人への投資拡大」です。これらは、新しい資本主義の実現に向けて「人的資本」の重要性を強調しています。
 そもそも、「人的資本」という言葉には一貫した定義を持たず、発信する機関や企業など、主体によって意味やその範囲に微妙な違いがあります。例えば、前述した「人材版伊藤レポート」では、人的資本経営を「人材を企業の『資本』と捉え、その価値を最大限に引き出すことによって持続的な企業価値向上につなげる経営手法」と定義しています。これらは建物や設備などの有形資産と同様に、企業に利益をもたらす重要な無形資産であり、企業にとって投資する価値があるものと考えられます。
 この考え方に沿って「人的資本経営」に取り組む企業は増加しており、その情報開示を求める投資家も増えています。欧米では人的資本の開示を求める動きが特に活発化しています。日本では、明快な情報開示のルールが定められているわけではありませんが、2023年3月31日以後に終了する事業年度に関する有価証券報告書などから、次のような情報の開示が義務化されることになっています。

・サステナビリティに関する考え方および取り組み
 「ガバナンス」「リスク管理」は必須、「戦略」「指標及び目標」は重要性に応じて
・人的資本、多様性に関する情報
 女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差など
・コーポレートガバナンスに関する情報
 取締役会、各委員会の活動状況、内部監査の実効性に関する取り組み、政策保有株式の発行企業と業務提携などを行っている場合の説明

 これらの開示情報は、転職市場で重要な役割を果たし、転職先の選択や入社後のミスマッチの減少に貢献すると考えられます。転職者は、企業が人的資本に対してどのように投資しているかを評価し、それによって自分のキャリア目標と企業のビジョンが合致するかどうかを判断することが期待されます。
 開示情報の活用方法については、開示された情報を単純に良いか悪いかで判断するのではなく、数値やデータの背景を理解し、自分のキャリア観や働き方と照らし合わせて考える必要があります。また、企業によってデータの取り扱いや開示内容が異なるため、同一の基準で比較するのが難しい場合もあります。異なる企業間の数値を直接比較する際には、その背景や計算方法を考慮する必要があります。
 人的資本の情報開示は転職市場において有益な情報を提供するものの、その解釈と活用方法が転職成功の鍵を握るでしょう。