このページの本文へ移動
ページの先頭です
以下、ナビゲーションになります
以下、本文になります

教員紹介

柿本 昭人 教授

かきもと あきひと

柿本 昭人 教授

研究分野(学部) 近代社会の思考システムを歴史的に探求する
研究テーマ(大学院) 考える《手》と触知の地平の探求
研究室 渓水館226号室
メールアドレス akakimot@mail.doshisha.ac.jp

研究の関心(研究内容を含む)

 近代社会システムにおいては「所定の時簡に・所定の場所で・所定の動作を」を軸に「生きて・生産し・富を生み出す」側と「生きてはいるが・生産もせず・富も生み出さない」側との分割を施していきます。もちろん、このシステムを更新する者とシステムを維持点検する者を必要とします。19世紀のコレラ流行は、このシステムが短期間に集中的に作動している姿を見せてくれます。二度の世界大戦では「総力戦」という思想のもとに、このシステムに人びとは全面的に巻き取られます。ナチスによる強制収容所は、単なる暴力と殺戮の場所ではありません。大量の人間を労働力としてヨーロッパ中から計画通りに移動させ、計画通りに栄養失調で労働力が更新される仕組みでした。強制収容所の現場では、収容された人びとから、管理運営する者が選抜されます。医師や歯科医、ドイツ語を学んだ科学者や学者もその候補となって、そうではない者たちよりも圧倒的に生き永らえる可能性が高かったのです。ナチズムは力によって打倒されましたが、思想や議論によって打倒されたのではありません。ナチスの強制収容所のシステムは、私たちが生きているこの世界でも日々作動し、それを目にすることができます。世界は「仕組みを作る」者とその仕組みを維持管理する者の側と生きていることそれ自体を「情報」として前者の側に提供する「資源」の側に分断されています。前者の側は「優秀な者がAIを使って世界の効率的な運営こそが新時代を開く」と主張し、市民社会の原理である自由と平等そして民主主義は時代遅れの悪弊であると嘯きますが、「資源」と見なされた側が今度もまた巻き取られてしまうのかに関心を持っています。

プロフィール

大学の学部は京都大学文学部に入学しました。専攻は現代史です。卒業論文では加藤正をとりあげ、三木清との対比から1930年代の思想状況を再度整理するという試みでした。そこでは「科学」というものがどのように社会に埋め込まれているのかが私自身のなかで新しい問いとして浮上しました。「歴史学」という枠組みのなかでは、この問いを続けることが難しいことが判明し、大学院は京都大学経済学研究科に進みました。修士課程と博士課程を通じて、19世紀のコレラ流行を対象として、当時の医学と経済学が交差する衛生学が病気をどのように捉え、人々をどのように訓育し、その結果がどのように現在の私たちの世界と地続きとなっているかを明らかにしました。その成果が『健康と病のエピステーメー――19世紀コレラ流行と近代社会システム』(ミネルヴァ書房、1991年)であり、これにより京都大学博士(経済学)の学位を得ました。1992年から大学に職を得て、ゼロ年代半ばに至るまでは『現代思想』(青土社)を中心に文章を世に問うてきました。2003年の秋に同志社大学政策学部設置準備室教員となり、2004年春に政策学部教員として現在に至っています。ゼロ年代の半ばからは、強制収容所、認知症、大人/子供と対象は様々ですが、科学の言説とそれに巻き取られていく人びと、そして「顔の見えない誰か」をつねに異物や生の外部として遇する世界について考え、現在に至っています。

講義・演習・少人数クラスについて

【学部科目】

 講義科目では講義内容を正確にトレースする能力をまずは身につけてほしいと思います。そのためには「誰が、誰に、いつ、どこで、何を、どのように……」といった疑問詞を常に用意して、講義内容を掬い取って、その上で講義内容を一つのストーリーとして自分のものとしてください。その上で、身の回りの出来事とそのストーリーと対比して齟齬を見いだしてください。少人数クラスでは、講義の前提となる最小限のリテラシ-とスキルについて伝達します。演習では、講義科目と少人数クラスの前提に立って、「こうなってほしい」と「これが現状である」との乖離を自分自身の「問い」として見いだせることを目標としています。

【大学院科目】

 大学院では、自分自身の「問い」を出発点に、乖離の距離と立ちはだかるハードルが何かを見いだしながら、実現可能性を考えながらゴールとしての解決策が見いだせるように講義・演習・少人数クラスにおいてアドバイスをしていきます。

受験生へのメッセージ(学部・大学院)

【学部生向け】

政策学部は2004年の段階で「社会が求めるチカラ」の応えることを旗印に創設されました。その「チカラ」とは答えのない問いに社会科学の教養をベースに立ち向かう価値観とスタイルです。最小限の知識をベースに、人びとの生の営みであれ、文献の世界であれ「現場」に降りたって身体を動かしてみることで、「こうであったらいいのに」に近づくために必要な知識やスキルを自分自身で見いだして、それを叶える学部での学びを組み立てていくところが特徴です。学問の都合や教員の都合でパッケージされた伝統的な学部との違いはそこなのです。少人数教育しか見ていないフォロワーとの違いもそこにあります。

【大学院生向け】

メンバーシップ型からジョブ型へと遅ればせながら日本の企業の人事政策も変化し始めています。その一方で「自動化」にふさわしい定型的な仕事はAIの進化とともにかつての中間層の仕事を急速に変容させていくでしょう。総合政策科学研究科への進学は、学部では不十分な専門性の獲得に留まらず、答えのない問いに立ち向かう価値観とスタイルについて一層の醸成を果たすことで、働く現実をたぐり寄せるさいには、学部の時よりも多数多様な土俵に上がることを可能にしてくれます。