同志社大学大学院 総合政策科学研究科

SOSEI TALK

これからの産学連携 中田喜文(教授)+南了太(技術・革新的経営専攻)
今回の「SOSEI TALK」では中田喜文教授と大学院ゼミの南さんに対談していただきました。日本のイノベーション力、大学と企業、さらには総合政策科学研究科の魅力等々、お二人に大いに語っていただきました。

出席者
中田 喜文 教授
南 了太 さん(総合政策科学研究科 技術・革新的経営専攻 博士課程3年)
於:今出川校地烏丸キャンパス・志高館(2018年5月16日)


Profile

中田 喜文
中田 喜文
同志社大学大学院
総合政策科学研究科
教授
南 了太
南 了太
同志社大学大学院
総合政策科学研究科
一貫制博士課程
技術・革新的経営専攻

中田
総合政策の中田喜文です。

総合政策のTIM専攻、博士3回生の南です。よろしくお願いします。
中田 喜文 教授
中田
今日は、私のゼミで非常に面白い研究をしてくださっている南さんをぜひご紹介したく、お誘いしました。
私どものゼミというのは、いろんな学生さんがいらっしゃいまして、幅広く言うと人と組織の研究をしているのですけれども、実は合計すると10人近い方々、京阪神の大学の職員さんが集まって勉強している、そういうゼミもやっています。
今日は、その中でも私自身の興味である、日本の大学と日本企業のイノベーションの接点の研究という、一番TIMらしい研究をされているということで、南さんをお誘いしました。そういうこともあるので、まずは私のゼミがやっている研究の紹介と、その後で、もっぱら南さんに主役を務めていただいて、彼がどういう研究をしているかという話を、皆さんにご紹介したいと思います。簡単な私の自己紹介にもなるのですけれども、私自身は長らく人と組織の研究をしています。何に興味があるかというと、もちろん人、あるいは組織そのものに興味があるのですけれども、それを研究することの先に自分なりに見据えているものは、やはり日本のイノベーション力というか、新しい価値を生み出す力というものがあります。
最近、日本の活力がないなとか、日本の科学技術力が落ちているとか、そういう話題がたくさんあるのですが、何が日本という国のイノベーション力を決める要因で、今はそれがどうなっていて、どうすればもう一度、力を上げられるのかということに、私はとても興味があります。そういう関係で、特に力を入れて、この10年ぐらい、技術者たちがどんな仕事ぶりで、どんな環境をつくってあげれば彼らが最もクリエイティブに働けるのかということを、いろいろ研究しています。そういうことからすると私の研究ターゲットは、どちらかというと民間企業で働く技術者の方々と、そういう技術者たちを雇っている企業がどういうことをやっているかということです。
そことの絡みで南さんは、われわれのような大学が持っている知的財産、あるいは大学で働いている研究者という人材というリソースと、企業の活動とをどうつなぐかということに、ご興味があって研究しています。そういう意味では、私の研究と南さんの研究は非常に補完性があるし、私にとっても非常に興味深いことを彼はやっているので、ぜひ皆さんに、今日はご紹介したいと思います。では南さん、まず簡単に自己紹介をお願いします。
南 了太 さん(総合政策科学研究科 技術・革新的経営専攻 博士課程3年)
私は2006年に同志社大学の社会学研究科修士課程を修了後、経済産業省の外郭団体のNEDO技術開発機構に就職いたしました。産学連携の若手人材を養成するというNEDOフェロープログラムがあり、同志社大学のリエゾンオフィスで約3年間、産学連携の業務を推進してまいりました。特に文系の産学連携に力を入れてきたというのが特徴でございます。
通常、産学連携というと、技術連携を中心に特許を生み出すとか、ベンチャーを創設するというのが一般的な産学連携のイメージなのですけど、実際社会の現場では技術だけでは解決できない課題が多く、人々の生活様式の理解や社会の構造変化の理解なくしてはイノベーションは起こりません。そうした点で先ほど申し上げた分野を得意とする経済学や心理学、社会学、哲学など未開拓の文系産学連携の知識が必要不可欠だと考えました。同志社大学の文系の先生のリソースを活用しながらの産学連携を推進してきたという経緯がございます。
その後、金沢大学のティー・エル・オーに行き、特許のライセンス活動を行ったり、現職では京都大学の産学連携本部で共同研究のマッチングやダイキン工業、日立製作所、パナソニック等の包括連携等を推進しており、約10年間、産学連携を推進してまいりました。
中田
わかりました。非常に興味深いキャリアを、1カ所に留まらずに、大学自体も3カ所か、それ以上ご経験されているし、やっていらっしゃる内容としても、一般的にいわれる理系の産学連携ではない分野で、非常にユニークな経験をされています。
そういうご経験を踏まえた上での今の研究だと思いますが、早速、まさに今の研究について、もう少し詳しくお話を伺えないでしょうか。

TIMには3年前に入学しました。これまで10年近く産学連携の実務はしてきましたが、学問的に産学連携を捉え直したいと思い、TIMに入学いたしました。研究テーマは「人文社会系産学連携の普及と定着」です。
研究内容は、「人文社会系の産学連携も実態はあって、理工系や医師薬系の形態とはまた異なるかたちで価値を創出しているのではないか」というのが、私の研究の仮説です。
その背景としましては、人文社会系産学連携が体系立った理解がされていません。例えば論文数で言っても理系の産学連携分野は300本以上あるのに対して、文系の産学連携は50本程度で事例研究が中心でなかなか実態がわかりにくい。
人文社会系の産学連携従事者は理工系が2086名に対して3名しか登録がなく支援体制もままならない状況で、産学連携の窓口でも活動の実態が把握されていない。
さらに、産学連携の根拠となる「科学技術基本法」において、同法の言う科学技術とは人文科学のみに係るものを除くということで、これまで1995年に「科学技術基本法」が発足してからずっと、人文社会系というのは蚊帳の外に置かれた産業政策が取られてきた。しかしながら人文社会系分野も産学連携の実態はあって、本分野を追究したいと思って研究をしております。

中田
そういう問題意識を持ちながら京大の産官学連携本部では、今のご興味を反映した内容の仕事をされているのですか。

京都大学に来てから5年近く産学連携をしておりまして、当初はダイキン工業、パナソニック、日立製作所等々、組織体組織の包括連携の推進の中で、文系の先生の知識も活用しながら産学連携を推進しておりました。最近、企業は技術連携に先立つテーマ探索の段階から大学との連携を求めておられます。そうしたところで文系の先生の力がすごく役に立つということがわかりました。
さらに、今私のほうで力を入れているのは、京都府下の10大学と連携をして、東京で京都の文化、芸術、科学を情報発信する「京都アカデミアフォーラムin丸の内」という取り組みです。その活動についても、文系の先生の知識を世の中に発信して、人々に「あ、こういう見方もあるんだ」ということを認識してもらえる機会につながっていきますので、そういう点で実際の自分の興味・関心のある論文のテーマと仕事というのは、常にリンクしています。

中田
そうすると、日々の活動の中で何か体験したこととか考えさせられたことが、次の週の研究のネタになるというか、そんな感じのこともありますか。

そうですね。連携というのは、大学の先生からも企業からの要望もいっぱいあります。いろいろなパターンがその都度出てくるので、毎日企業とのマッチングで刺激を受けながら、こういうケースは今回初めてだなとかということを常に頭に描きながら、これがまた新しい研究にも生かせるなとか考えながら仕事をしています。

中田
さっき私が申し上げた私自身の問題意識、日本の科学技術力は相対的に少し落ちてきているんじゃないかとか、あるいは、イノベーション力が落ちてきているんじゃないか。杞憂で終わればいいのですが、この私の心配については、実務の現場の感触としてはどんなお考えですかね。

実際、研究力は落ちてきているように私も感じております。

中田
あ、そうですか。

はい。これまでは大学の教員の使命というのは教育と研究でよかったのですけど、今は社会貢献の一環で産学連携とか国際連携ということが追加になりました。さらに、大学自体が少子化の中で経営状況が厳しいとか、国立大学の場合で言うと、運営費交付金が減らされてくるということで、大学の先生にかかる業務がたいへん増えてきている。そうなると自由な研究が活発にできないという環境になります。そういう点で研究力は減りつつある。
ただ、産学連携を通じて企業と一緒に連携することで、実用的な研究をしていこうという先生も増えてきているのも事実です。そういうところから、今までの純粋な研究力は落ちてきているかもしれませんが、企業との連携を通じた新たなイノベーションの芽は、いっぱいできつつあるんじゃないかと感じるところです。

中田
見方を変えれば今までは研究のための研究をしていたけれど、むしろそういう意識を産学連携というスキームを通して変えてきて、何のための研究なのかを人文社会科学の先生方が考えながら、より研究テーマを探索したり選んだりするという方向に向きつつあるというポジティブな側面が、既に生まれつつあると理解していいのですか。

今まで文系の先生で言いますと、自分たちの研究は企業には役に立たないと思いながら、発表する場も論文であったり学会というのが中心であったのですが、実際にテーマ探索をしている企業からすると、こういうものの見方はあるんだとか、歴史を振り返りながら、過去にはこういう事例がある中で今はこの状態だからという気づきを得たりとか。 ほとんど産学連携されている企業の従事者の方は技術者の方が多いので、文系の先生と意見交換をすることで、新たな発見につながるということは、意味があることだと思います。

中田
それは南さんがそういう場をつくられて、横から研究者の方々の様子を見ていると、研究者の方々が変わっていっているというのは実感されますか。

そうですね。普段まったく接点のない企業の方との対話があり文系の先生も関心を持って企業と面談をしていただいていますし、そういう点で変わってきていると感じることはあります。

中田
であれば、私が先ほどお話ししたことは杞憂であり、むしろ日本の科学技術イノベーションに、今まで以上に意識が向けられるようになれば、望ましい状況ですよね。

そうですね。ただ、そこがわからないところでもありまして、逆説的な話になるのですが、大学の研究が企業志向の研究になればなるほどイノベーションが起こるのかはわかりません。もしかしたら自由で企業志向の研究をしないことこそが、ひょっとしたら新しいイノベーションにつながる可能性もあるので、私自身も解答を持っていなくて。かつ、今の世の中、何でも拙速に成果を出せという風潮があるので、本当にこの流れがイノベーションを起こすきっかけになっているのかどうかは、ちょっとわからないところであります。