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教授が語るSOSEI

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今川 晃

研究のスタイルはどのように構築されるのか?

個々の研究者の研究のスタイルが異なるのはなぜか。私の場合、これまでの人生における生活や経験とも無縁ではないと思うが、住民参加の提唱者であり独自の研究領域を築いた恩師との出会いが最も大きいと思う。「人間味のある視座」、「実践から構築する理論」のスタイルにあこがれ、大学院時代は恩師が担当する大学院や学部の講義やゼミは毎回全て参加した。この恩師は他の研究者からも「人間味のある行政学」と評価されてきた。そして、私は、未だに恩師から少しでも多くのことを吸収しようとしている。また、学部時代の別の恩師からは、歴史的な視点から分析することの大切さを学んだ。

総合政策科学を前提に研究を行うということは、政策形成、実施、評価等の一連の政策過程と多様な学問分野からの多角的なアプローチが織成す「世界」に入らざるを得ない。何の基盤もなくこのような研究環境に身を置くことは難しいと思う。したがって、基本的な価値や研究スタイルをどこで自ら構築していくかが、研究者へのスタートとして最も重要なことのひとつと思う。ここに指導教授を必要とする根本的な理由があると信じている。別の観点からいえば、「学風」あるいは「学派」の形成とも関わることであり、研究の「心の拠り所」でもある。

恩師から私流に学んだ「人間味のある視座」は、2年前に世に問うた『個人の人格の尊重と行政苦情救済』(敬文堂、2011年)の中で、表現できたと思う。また、同書の「帯」に恩師から「本書は、著者が学究への道を志して以来一貫して追求してきた行政苦情救済制度についての多年の研究を踏まえて、社会的に弱い立場にある人々の人権尊重を基本にしたそのあり方を提言している労作である。」というお言葉をいただき、いささかなりとも「学風」の一員にお認めいただけたのではと嬉しく感じている。私は住民参加の実践や研究をすすめながらも、一方では「行政苦情救済の仕組みは民主主義の持続、発展を支える中心的な制度やテーマにはならないが、民主主義を促進させる一定の役割を果たしている。個別の声を全体で議論すべき声として公共の議論の俎上に載せるシステムのあり方について、検討することが必要である」ことを主張してきた。

次に、「実践から構築する理論」については、直接実態に身を置く場合、外から観察する場合等、多様である。恩師は日本のみならず海外においても歩いて現場を観察する研究スタイルを基盤としてきた。参考文献や注の全くない論文も多く発表してきたし、それでも高い評価を受けてきた。このような論文スタイルは基礎研究が確立しているがゆえに可能となるものであり、加えてパイオニアとして歩むこと、必ずその土地での見聞を前提とすること等、研究スタイルとしてはハードルが高いと考えている。私は、最低でもその土地の見聞の体験が無いのであれば、他の研究者の分析の引用は別にして、あたかも自らの分析のようにその土地の地名を載せることは、その土地の人々に失礼であると考えている。ここでも「人間味のある視座」とも重なり合うのである。

コミュニティの活性化に関しては、実践活動を通じて、多様な取り組みを行ってきた。また、実践活動の当事者とはなり得なかったが、四日市市と水俣市の両都市については、公害の克服におけるコミュニティのあり方について研究してきた。もうかれこれ20年ほど前であるが、1週間以上にわたり四日市市立図書館の書庫に入らせていただき、過去の新聞を調べた経験は懐かしくもあるが、いろいろなことを発見することができたし、その後のヒアリング項目の設定には大変役立った。水俣市では、日本の住民自治のあり方にも広く影響を及ぼし、「もやい直し」への大きな転機となった『第三次総合計画(1996-2004)』策定アドバイザーを経験したことは、私にとっては今でも誇りに思っている。この両市の歴史過程を踏まえた分析を通じて、「住民自治」を基盤にした「団体自治」へのパラダイムの転換を実証してきたが、これも「学風」のおかげであるとやっと確信する段階に達したところである。

ところで、総合政策科学(あるいは政策学)の実態研究のために、今年度で第9回を迎える全国大学政策フォーラムin 登別(北海道)と全国大学まちづくり政策フォーラムin京田辺(京都府)、また今年度で第2回となる氷川流域連携・全国大学生アカデミー(熊本県)を立ち上げてきた。登別は議員グループ、京田辺は行政職員グループ、そして氷川流域は本研究科の院生が事務局となり、住民グループと共に運営している。全国から10大学100人程度が集まり、多様な専門的見地から課題の発見、解決に向けた政策提言をし、地域の方々とも意見交換をすることで、政策提案能力の向上を目指している。一方では、その地域の方々が政策議論の大切さを感じ取っていただくことも密かに期待している。このことが住民自治の基盤を形成するし、他地域に波及すれば全国的に「住民自治」を基盤にした「団体自治」へのパラダイムの転換が生じるであろうと夢見ても良いのではないかと思う。

当然、いろいろな研究のスタイルがあっていい。院生の皆さんには、このことについて改めて考えてほしいと願いつつ、このあたりで筆をおくこととしたい。

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