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中小事業者のおっちゃん、おばちゃんの心意気 井上恒男教授

 10月は里親月間であった。高齢者や障害者に比べ、いわゆる児童の社会的養護の問題はなかなか国民的関心事になりにくい政策分野である。特に、親の養育を期待できない子供達に児童養護施設ではなく里親への委託を広げていこうという取組みは、数年前から目標値が定められているもののなかなか進展してないのが現状である。そんな中、中小事業者の有志が児童養護施設に入所している子ども達の職場体験に一役買っていることをたまたま知る機会があり、あらためて目を見開かされたので紹介したい。ほかでもない京都市内の中小事業者のおっちゃん、おばちゃんの活動である。6月11日深夜のNHK番組「おっちゃんは君らの未来を諦めない」を見られた方はご存知であろう。

 ことの発端は、店舗のあるビルで発生した某事件の余波で一時期お客さんを失ってしまった写真スタジオの店主がようやく最悪の状態を脱し、地域に何かご恩返しをしたいと考えて児童養護施設の子ども達の写真撮り活動をしていた時に、子ども達が退所して社会に出た後の就職と定着がうまくいっていないことを知り、そんなことがあってよいのかと義憤を感じたことである。児童養護施設は18歳に退所するのが原則であり、職員は子ども達が巣立ちできるよう普段から何かとケアはしているものの、親に見捨てられ、あるいは虐待を受けたなどの様々な心理的ダメージは大きく、また、施設内の集団生活は社会から閉ざされがちで、独り立ちは容易ではないのである。厚生労働省や関係団体等の調査でも、以前からその問題は指摘されている。


 ともあれ、ほっとけないと感じた写真スタジオ店主と呼びかけに応じた市内中小事業者有志が、施設の子ども達の巣立ちに役立つなら力を合わせようということから職場体験の取組みが始まった。中小事業者の方々にとっては本業の傍らでの受入れなので、期間は長いケースばかりではないようである。しかし、NHK番組に登場した子供達の体験後の表情、控えめながらも見せてくれた笑顔は、子ども達の中で何かが変わったことを物語っていた。施設から出た後の社会には自分を気にかけ信頼できる大人もいる、ということが分かっただけでも、子供達には何物にも代え難い経験であったに違いない。私も活動報告会の一つに参加させていただく機会があったが、地域や社会のお役に立つことがあればしてみたいと考えておられる中小事業者のおっちゃん、おばちゃんが少なくないことを知り、その心意気には脱帽であった。と同時に、かつて里親の中には義務教育を終了した後の子ども達を親代わりになって預かり仕事をおしえる職親という制度があったことを思い出し、おっちゃん、おばちゃんのような存在の大切さをあらためて気付かされた。

 地域にこのような様々な形での応援隊が増えていけばよいと思っていた矢先、児童養護施設や里親に預けられる年齢の引上げ議論が政府の検討会で進んでいるとの報道があった。確かに、子ども達が施設等から社会に出て行くうえでは様々なハードルがあるので、関係機関や専門家が18歳を超えて適切な支援を継続する体制を充実することは必要なことであろう。とはいえ、年齢の引上げは子ども達を社会的養護の世界に囲い込み、時計の針を逆に回すようなことにならないのだろうか。まずは今の枠組みの中で、例えばおっちゃんやおばちゃんの力を借りながら施設職員や里親が子ども達の成長、自立に向けた十分なケアができるような体制の充実を図ることが先決であり、その後はさらに広く地域の出番ではなかろうか。