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数学を学びましょう 教授 三好博昭
現代経済学の数学基礎
A.C.チャン, K.ウエインライト著
小田正雄, 高森寛, 森崎初男, 森平爽一郎 翻訳
シーエーピー出版

総合政策科学研究科で「数学」の講義を担当するようになって6年目になる。文系の学生にとっては「数学」は敷居の高い科目だと思うが、嬉しいことに受講生は徐々に増えてきている。この講義では、テキストとして、33年前に私が経済学部の中尾武雄先生のゼミに所属していた時に使われていたテキスト、A.C.チャン・K.ウエインライト『現代経済学の数学基礎』(写真)を使っている(私が学部生の頃に使っていたのはA.C.チャンによって執筆された旧版である)。この本は中級程度の経済学を理解するために必要な数学が非常に分かりやすく体系的に整理されており、この本を完全にマスターすれば経済学・社会科学で使われている数学はだいたい理解できるようになる。

総合政策科学研究科で学ぶ学生には、大学受験で数学が必須でなかったが故に、数学の学習を高校時代に止めてしまった人も少なくないようだ。数学力は優れた論文を書くための必要条件でも十分条件でもない。数学を使うことが相応しくない研究分野もあろう。ただ、数学は、議論の論理的な透明性を高めていく上で非常に効果的な手段となる場合が多い。また、この学習で培われる論理能力は普遍的なものだ。

「数学」の教師としては誠に恥ずかしい話だが、実は、15年前の私の数学力はひどい状態だった。当時、私は、民間のシンクタンクで仕事をしていたが、数学を完全に忘れ去っていたために、理論的な経済学論文のロジックを詳しく追いかけられず、まるで砂上の楼閣で仕事をしているような居心地の悪さを感じていた。どうすべきか随分悩んだが、一念発起、数学をやり直すことを決め、まずは、上述したテキストを読み直すことから始めた。しかし、当時の私は、この第1段階の作業に非常に苦労した。数式を1つ1つノートに書いて論理を確認しながら読んでいると、一日かかっても数ページしか理解できないということもあった。この本全体を完全に理解したと思えるまでに、約8ヶ月の期間を要した。辛い日々だったが、思考の基礎工事が終わったような充実感を覚えたのを今でも思い出す。

上述したように、研究分野によっては、数学は直接的には役に立たない。数学が役立つかどうかは、自身の研究分野の先行研究をみればだいたい分かる。また、ゲーム理論などは、応用範囲は社会科学全体に及ぶ。さらに、論文を書く時に統計的な手法を使う学生が多いが、統計学を理解する際にも数学は必須である。

「数学ができればな!」と考えている方は、是非、授業に参加してみて欲しい。目下のところ「数学」の授業登録者の約半数は、数学に苦手意識を持った方々である。一大決心で授業に登録してくれたのだと思う。「数学」の講義内容は、高校レベルをかなり超えるので、そうした学生は、分野を限定して確実に理解することから始めて頂きたい。その結果、テキストを自力で読めるようになれば第1段階のハードルは越えたことになる。ただ、高校低学年レベルの数学は復習した上で授業に臨んで欲しい。一方、授業登録者の残りの約半数は、元来、数学が好きな方々である。そういう方々にとって重要なのは、15回の授業が終わった後に、数学を自分の論文にどのように活かしていくかを考えることである。実のところ、教師として、この点に対する気配りが足りなかったと反省している。来年度からの改善点としたい。