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違憲審査権と主権者の役割 教授 大島佳代子

日本国憲法は第81条で「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定め、 通常裁判所に法令審査権――裁判を行うにあたって適用される法令が憲法に適合しているか否かを審査する権限――を認めている。 しかしながら、日本国憲法が施行されて以来60余年、最高裁判所が違憲判決を書いた例はさほど多くない。法令違憲(法令の全部または一部を違憲とする方法)に限れば8件である。

これまであまり違憲判決が書かれなかった理由のひとつに、裁判官の任命のあり方が挙げられる。 最高裁判所の場合、長官は内閣の指名に基づき天皇が任命し(憲法6条2項)、その他の裁判官は内閣が任命し天皇がこれを認証する (憲法79条1項、裁判所法39条2項・3項)。 このように、最高裁判所の裁判官の任命権は内閣に存するが、その内閣の構成メンバーである国務大臣は総理大臣によって任命され(憲法68条1項)、 総理大臣自身は国会の議決により指名される(憲法67条1項・2項)。そこで、全国民を代表する選挙された議員で構成される国会の意思である法律の憲法適合性を、 国民の意思が直接反映されていない(その意味で非民主的機関である)裁判所が判断する際には、国会の意思を最大限尊重すべきであるとされ、 実際にそのような運用がなされてきた。しかし他方で、社会の少数派が自己の権利の保護を政治過程に働きかけて実現しにくい状況、 社会のめまぐるしい変化に立法・行政が十分対応できない状況の下で、または、あるべき憲法秩序の実現を目指して、裁判所による救済が求められてきた。

最高裁判所(裁判所ウェブサイトより)
最高裁判所(裁判所ウェブサイトより)

ここ数年、政治の混迷の影響か、裁判官の意識の変化か、最高裁の違憲判決が相次いでいる(郵便法違憲訴訟(最大判平14・9・11)、 在外邦人選挙権違憲訴訟(最大判平17・9・14)、国籍法違憲訴訟(最大判平20・6・4)、砂川空知太神社違憲訴訟(最大判平22・1・20))。

そして、おそらくそう遠くない未来に、参議院議員定数不均衡に関する最高裁の判断が下されるはずである。 最高裁は、衆議院議員の定数不均衡については2度の違憲判断を示し(最大判昭51・4・14、最大判昭60・7・17)、 その後、衆議院の選挙制度は中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に変えられた。 最高裁判所が出した違憲判決の効力については、当該事件に限って適用が排除されると考えられる(個別的効力説)。 つまり、ある法律が違憲とされても自動的に六法全書から削除され無効となるわけではなく、国会における改正・廃止の手続が必要とされる。 この点、定数不均衡の問題は、国会議員にとっては自らの当落に関わることもあり、なかなか改正論議が進まない。 参議院については、これまで一票の価値が5倍に広がっても合憲としてきた最高裁にも問題はある。 しかし、投票価値の不平等状態の是正は、最終的には国会の手中に委ねられているのである。

代表民主制にとって、公正に代表を議会へ送り出すことは最も基本的で重要なことがらである。憲法第43条1項は次のように規定する。 すなわち、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」(下線は筆者が付す)。 改めて、われわれ国民ひとりひとりが、主権者として「選挙権」の意味を考える必要があるであろう。

<参考文献>
芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法 第5版』(岩波書店・2011年)
野中俊彦=中村睦男=高橋和之=高見勝利『憲法Ⅱ 第4版』(有斐閣・2006年)