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議員「特権」と説明責任 総合政策科学研究教授 武蔵勝宏

国会議事堂廊下(写真)議員特権とは、憲法学の教科書的に言えば、国会会期中の不逮捕特権や、発言の免責特権を指す。いずれも、全国民の代表として重要な権能を行使する国会議員の自由な活動を保障することで、議院の審議権を確保することに目的があり、歴史的にも諸外国の法制において採用されてきたものである。しかし、昨今のマスコミなどで指摘される議員「特権」は、こうした国会議員の地位に由来する制度的保障ではなく、議員のお手盛りによって自らに付与した優遇措置のことを意味する場合が多いようである。

国会議員の待遇は、給料(歳費)については、大臣政務官と同額と定められ、加えて月額100万円の文書通信交通費も交付される。その他に所属会派に交付される立法事務費や、三人の公設秘書、議員会館の事務室、JRの乗車パスや選挙区に帰るための航空機代もすべて公費で賄われている。議員を退職した後も、10年間の在職で、年額400万円もの年金が支給される(なお、2006年度より議員年金は廃止された)。これらの手厚い保障は、重要な国政活動に携わる議員を物的・人的な面でバックアップするために必要なものとされてきた。

議員登院口(写真)しかし、一口に議員活動といってもその内容は千差万別である。投じられた費用に対して、どれだけ生産的な効果を上げているかは、かねて疑問視されてもきた。55年体制以降、議員立法の割合は、政府提出法案に比べて、提出数で3割、成立数では1割に過ぎない。こうした現状を地方自治になぞらえて、「三割自治、一割主権」と揶揄されてもきた。政府委員制度の廃止、党首討論の実施、予備的調査制度の導入といった新しい仕組みを取り入れたものの、改革の成果はそれほど挙がっていないといえる。行政改革の一環で、不要施設の売却や職員数の削減が立法府も例外でないとされているのも、議員特権に対する有権者からの批判が背景にあるようだ。

これまで、議員の特権に関する見直しを、国会が主導して行うことはほとんどなかった。唯一の例外は、「政治倫理の確立のための国会議員の資産等の公開に関する法律」の制定であろう。1980年代末から露呈した様々な政治家の蓄財スキャンダルは、国民世論の怒りを買い、ついに、国会議員全員に対して、資産、所得、関連会社役員の三点セットを報告書として年一回、提出することが1993年より義務付けられるようになったのである。この報告書については、衆参の議院事務局に行けば、誰でも閲覧することが可能である。報告書自体は事務局が指定したB5の用紙に手書きで記載されたもので、土地、建物、預貯金、有価証券、自動車・美術品、ゴルフ会員権、貸付金、借入金などの項目がある。これらは議員の自主申告に基づくもので、土地や株券については、時価の評価などは記載されていないので、いったいいくらの資産があるかはわかりにくい。もちろん、それらを証明する書類などは一切添付されていない。なぜか、これらの報告書のコピーや写真撮影は厳禁され、筆写のみが許されている。議員の間では、こうした資産公開については、プライバシー保護の観点からあまり評判はよくないとも聞く。しかし、こうした情報を自ら公表することで、国民の政治家に対する不信や疑念が晴らされるのならば、むしろ歓迎すべきことであろう。資産補充を毎年定期的に公開しているので、その増減は直ちに明らかになるし、議員が議員活動とは別に、どんな会社や団体の役員や顧問をして、そこからどれだけの収入を得ているのかがわかるからである。

第1委員会室(写真)政治倫理確立の観点からは、あっせん行為による利得等の処罰に関する法律も議員立法で制定され、2001年より施行されている。この法律の施行後、あっせん利得による国会議員の逮捕者をまだ出していないので、いわゆる「口利き」政治に対する抑止効果はあるようだ。その一方で、議員が選挙区や支持団体の陳情を受けて、役所に働きかけるという行為は、重要な議員活動の一部という声も聞く。問題は、そうした政治家からの口利きが、何らの記録も残されず、不透明な形で処理されていることであろう。本来であれば、刑罰を置く前に、政治家と官僚の接触に関する節度のあるルールの確立とその遵守が必要なことはいうまでもない。議員の口利きは、きちんと記録に残して、国民に公開するなどの透明性の確保がまず図られねばならないだろう。議員が、自らの政治活動を有権者にきちんと説明できる説得力がなければ、シビアな選択眼をもった今時の有権者からは早晩見放されることになるはずである。

※ページ内の写真:参議院事務局提供