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英国における幼保一元化の動向 総合政策科学研研究教授 井上恒男

長年の懸案だったいわゆる幼保一元化が、幼稚園・保育所の両機能を備えた総合型施設という形で2006年度から実施されることになり、全国36ヵ所で現在パイロット事業が進んでいる。一口に幼保一元化といっても、わが国では二元行政を前提にした規制緩和あるいは地方分権という文脈で論じられることが多いのに対し、ブレア政権発足後加速している英国の幼保一元化は、関連行政の連携・統合という性格が強い。昨年9月に実情調査の機会があったので、その全体概況を報告したい。

就学前児童に対する英国の保育・教育施策は、我が国と同じく、3~4歳の幼児教育を担うナーサリー・スクール等と呼ばれる幼稚園(教育技能省所管、地方自治体は教育局担当)と、保育に欠ける乳幼児を保育する保育所等(保健省所管、地方自治体は社会サービス局担当)の典型的な二元体制で発展してきた。約30年前のヒース保守党内閣当時に両施設の連携を進める政策が打ち出されたこともあったが、基本的に各地方自治体の判断に委ねられたため全国的な取組みにはならなかった。また、各施設の整備は地方自治体に任せられていたため、絶対数が不足し、地域格差も大きかった。

これに対してブレア政権が幼保一元化を強力に推進しているのは、第1に、1997年に政権に復帰した労働党がそのマニフェストの公約の中でも教育政策を最優先課題とし、とりわけ将来の英国を支える児童に対する就学前段階での保育・早期教育を重要視しているからである。その基本戦略は「全国児童ケア戦略」として策定され、福祉サービス改革の中でも先陣を切って打ち出された(因みに、英国内では保育所増設が急速に進み、今回調査したバーミンガム市内の宿泊ホテルの向かい側は開設間もない保育所であった。写真参照)。

開所間もない保育所(バーミンガム市内)(写真)
開所間もない保育所(バーミンガム市内)

幼保一元化推進の第2の背景として重要なのは、行政サービスの連携(ジョインド・アップ)である。前保守党政権が「小さな政府」を目指したのに対し、ブレア政権は「行政サービスの近代化」に軸足を移し、行政パフォーマンスを向上させる取組みの中でも力を入れているのがジョインド・アップである。幼保一元化はいわばその目玉として注目されているわけである。

このため、英国版の幼保一元化では、幼保の施設運営面にとどまらず、中央省庁・地方自治体の担当部局の一元化、検査機関の統合までをも包む本格的な取組みとなっているのが特徴である。既存施策を前提にした単なる連携とは性格が異なる。英国はこれまで何度も中央省庁の機構改革を行っているが、今回の幼保一元化では、中央省庁では教育技能省のシュア・スタート課(Sure Start Unit)に、地方自治体では教育局に一元化した。併せて、就学前児童施設の検査も、もともと教育サービスの監査を行っていた独立行政機関の「教育基準検査院」に一元化された。我が国では今のところ幼保施設の総合化までで、その先が不透明であるのに対し、政治的意気込みの強さがうかがえる。

わが国の幼保総合施設との関連で注目されるのは、現行の保育・幼児教育施設に加えて全国すべてのコミュニティに最低1ヶ所の「児童センター」(Children`s Centre)を整備するという方針である(困窮度の高い地域から順次)。我が国が目指す総合施設と趣旨は同じであるが、従来の貧困地域家庭を対象にした就学前保育対策(シュア・スタート事業)と幼保のワン・ストップ・センターである就学前児童モデル・センターの事業実績を踏まえ、その発展的拡大を図るものである。保育・幼児教育の総合化と同時に家庭支援及び母子保健サービス、必要に応じて保護者や保育サービス提供者のための地域におけるサービス拠点となることが期待されている。

総選挙を意識してか、昨年10月には「児童ケア10ヵ年戦略」が打ち出され、幼保改革のピッチは一段と上っている。英国の保育料は、保育所は税払い戻し方式、4~5歳児の幼児教育は無料化が進む等、我が国と事情はかなり異なるが、職員や施設の基準は、既存の保育所・幼稚園との連続性や各施設での弾力的な運営を尊重する等、現実的な対応も随所に見られる。わが国の総合施設の国内基準も恐らく年内にはまとまり、いよいよ運営段階に入っていく。二元体制からの脱皮という意味では日英両国とも同じ課題を抱えているわけであり、お互いの実践経験を学びあうことがこれから益々有意義になっていくと思われる。