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アラスカ・ポゴ金鉱山開発プロジェクトを訪れて 総合政策科学研究科客員教授 太田 元

アラスカ州フェアバンクスから南東へ約145kmのポゴ地区で住友金属鉱山(株)とカナダのTECK COMINCO社が中心となって来年春の生産開始を目指して金鉱山開発を進めている。筆者は去る9月、住友金属鉱山の監査役として、急ピッチで工事が進む現場を訪れる機会を得た。以下では、プロジェクトの開発許可取得に際して環境保全の観点からみた行政(連邦・州政府)、住民(先住民、NGO)等の関与ならびにその結果講じられている主要環境保全対策に絞って報告する。

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そもそもアメリカでは1969年以降、環境影響評価法により、行政は民間企業による開発行為を許可するにあたって、環境に及ぼす影響および代替案について検討することが義務付けられている。具体的には、許可申請があると、行政府(環境保護庁-EPA)は一定の手続きに沿って第三者に環境影響報告書(Environment Impact Statement-EIS)の作成を求め、その責任において最終版EISを発行する。これを受けて、州政府(ポゴプロジェクトの場合、州所有地内に位置している関係でアラスカ州政府)が主要許認可を、連邦政府機関(本件の場合、陸軍工兵隊-COE)が該当部分の許認可を(水質基準認可は環境保護庁-EPAが認可)、そしてEPAが最終認可(National Pollutant Discharge Elimination System-NPDES permit)を発行して、一般に許可・認可のプロセスは終了、プロジェクトの建設は本格化する。(別表参照)

写真2

ポゴ金鉱山開発における主たる環境問題は、生態系への影響をミニマムに抑えることにある。具体的には鮭の遡上する川の保全、ヘラ鹿などの生息地への影響回避であるが、これらはまた先住民等の生活に不可欠な漁業、狩猟の基盤の保全目的でもある。こうした目的に沿って、まず最寄りのハイウエイと現場を結ぶ鉱山アクセス道路約80kmについてはヘラ鹿の繁殖地の回避、先住民の遺構を配慮して選定され、さらに地域の自然環境保護のため一般人の使用を認めない前提で建設された。

水処理関係では、坑内水で鉱石処理を一切賄い、使用後は水処理プラントを経てGoodpaster川へ放流する仕組みにしているが、自然の水系保全の観点から特筆すべき取り組みが行われている。まず注目すべきは、尾鉱ダムに地表水が侵入しないように構造にしていることはもとより尾鉱を脱水し浸出水の量を極力抑えるなど随所に工夫が凝らされている。因みに、この仕組みは環境影響評価法に準拠させるべくEPAの積極的な支援の下で構築されたものである。

鉱石処理関係では、金の精鉱に使用されるシアン処理が大きな関心事であった。そこでシアン化尾鉱はシアン分解のうえ坑内充填に利用、シアン接触水も工程内で隔離する閉鎖システムが確立している。もっとも、他の金鉱山開発に見られないほど比重選鉱を最大限活用するプロセスを採用し、シアン化尾鉱は処理鉱石全体の10%に抑えられていることも特徴的である。残り90%は浮選尾鉱として半分が坑内充填に、あとの半分は脱水し先述の尾鉱ダムに堆積される。

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最後に、NPDES 認可発行後、地元環境団体から異議申し立てがなされた事に触れておこう。申し立ての内容は、尾鉱ダムや貯水場などからの浸出水の問題についての一層の検討、水処理についての代替案の検討要求、尾鉱ダムの構造や浸出水と地表水を分離する仕組みと環境影響評価法の解釈との整合性についての疑義などである。詳細には立ち入らないが、環境団体側に誤解などもあり,雇用創出に関心を持つ地元の支援を背景に州政府が中心となって事態の早期打開に乗り出し、事業者側が4点(操業・環境データ公開会合を毎年開催する、漁業・鉱業・地域住民・民芸・環境団体など代表7名からなるレビューパネルを年2回開催する、川の水質モニタリング用の観測井を2箇所追加する、川の漁業資源調査費用を提供する)を受け入れ、環境団体は異議申し立て後半月余で取り下げた。

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なお、専有のアクセス道路は鉱山閉山の折は入り口から半分は林業用道路として活用し、残りは撤去して開発現場とともに元の状態にもどすこととなっている。また、蛇足ながら、ポゴプロジェクトは10年の寿命を予定する有数の金鉱山であるが、開発サイト内にもまた鉱区内にさらに新たな金鉱脈が見つかる可能性があり、関係者の期待は膨らんでいる。(了)

[別表] 許認可取得の過程
00.08 NPDES申請(EISプロセス開始)
09 スコープ・ミーテイング
12 EISプリレミナリー・ドラフト作成開始
01.01 スコープ・サマリー配布
02.08 EISプリレミナリー・ドラフト配布
03.03 EISドラフト配布
04 公聴会
09 EIS最終版発行
12 アラスカ州政府所管の主要許可取得
04.01 陸軍工兵隊の許認可取得
02 EPA、アラスカ州新水質基準認可
03 EPA、NPDES認可発行
04 環境団体NPDES認可に異議申し立て
05 和解、異議申し立て取り下げ
05 NPDES取得(有効期間09.03末まで)